2025年7月|日本の中古車輸出トレンド分析 増減の要因とは?
- Yugo Fukada
- 9月17日
- 読了時間: 20分
2025年7月の中古車輸出動向の統計解析
急増TOP2:スリランカ(+74.9%|6,569→11,491台)、チリ(+61.4%|4,065→6,562台)
急減BOTTOM2:ミャンマー(-52.1%|163→78台)、タイ(-51.9%|5,627→2,707台)
背景(当月データから読み取れる事実)
スリランカ:+4,922台の増分で、ネット成長の70.5%を単独寄与。上位国の中で伸び幅・台数とも最大。→ 配船・在庫繰りの最優先対象。
チリ:+2,497台でネット成長の35.8%を寄与。中位ボリュームから一段繰り上がり。→ 中価格帯中心の回転強化が有効。
ミャンマー:率は-52.1%と大幅だが、台数寄与は-85台で全体影響は限定的。→ スポット対応に限定。
タイ:-2,920台でマイナス寄与の最大(ネット成長の41.8%を相殺)。→ 短期は仕入れ選別と便ズレ対策。


いま何が起きている?(全体スナップショット)
本表合計:127,479→134,457台(+5.5%)。増加国19/減少国11。
アンカー市場(7月台数上位):
アラブ首長国連邦:19,292台(-7.5%)
ロシア:17,045台(-3.2%)
スリランカ:11,491台(+74.9%)
タンザニア:9,389台(+26.1%)
ケニア:8,037台(+42.9%)
プラス寄与上位:スリランカ +4,922/チリ +2,497/ケニア +2,414/タンザニア +1,946
マイナス寄与上位:タイ -2,920/ジャマイカ -1,678/アラブ首長国連邦 -1,567/ニュージーランド -1,293
🔍スリランカの中古車輸入が急増した要因
🏆 1位:スリランカ(+74.9%/+6,569→11,491台)
💡 なぜ急増?
なぜ7月にここまで跳ねたのか。ポイントは「制度の再開 → 需要の解凍 → 物流の時差」という三段のメカニズムです。
1) 制度の再開
スリランカは外貨危機の打開策として2020年から長らく乗用車輸入を停止してきましたが、2025年2月1日付で輸入停止が解除され、個人用の乗用車やバン等を含む広い車種の輸入が再び可能になりました。解除はガゼット2421/04・2421/05(2025年1月27日付)等で順次整備され、税体系も更新されています。たとえばCustoms Import Duty(CID)の取り扱いが見直され、2月1日以降1年間はCIDに対して50%のサーチャージを課す措置も財務省のガゼット(2421/43)で明記されました。制度が「解禁された」だけでなく、「どう課税し、どう通関するか」という実務の前提が揃ったことが、発注再開の前提条件になりました。
2) 需要の解凍
約5年ぶりの解禁は、滞留需要(pent‑up demand)の実需化を招きます。スリランカ税関は2025年2月の解禁以降、6月20日までに約1.4万台の車両が輸入されたと公表しており、歳入面でも自動車関連の関税収入が大きく伸びていると伝えています。これは解禁後、注文→通関→登録が本格的に動き出していることの裏づけです。輸入ボリュームが立ち上がる局面では、中古でも状態が良い日本車に資金が向かいやすく、右ハンドル市場での調達適合性も相まって、日本発の輸出統計が敏感に反応します。
3) 物流と金融の“時差”
政策の解禁(2月)から実出荷(日本側統計)に反映されるまでには、オークション調達→整備・船積手配→RORO/コンテナのスペース確保→出港という工程を踏むため数週間~数か月のラグが生じます。さらに、便の“バンチ”(配船の月またぎ集中)が起きると、6月に乗らなかった船が7月に着弾して月次が跳ねやすい。7月の政策金利は年7.75%で据え置き(5月に25bp利下げ後)と、クレジット環境は慎重ながらも緩和基調を維持。購買資金の手当てが利く環境が、ちょうど7月の出荷タイミングに重なった――この“制度→需要→物流/金融”の位相が、今回のスパイクを説明します。
4) 7月運用の実務ポイント
商材:課税構造と家計の支払い能力を踏まえると、当面は小型〜中型セグメント(低~中価格帯)で年式が比較的新しく、リコン費用の読める個体が最も回転しやすい。事故歴・下回り・電装系の状態など、“再整備コストを左右する項目”の開示の厚みが価格許容度を押し上げます。輸入解禁直後は検査・評価・登録の実務運用がなお固まり切らない局面があり得るため、書類整合性(車歴・整備記録・輸送書類)の標準化テンプレを先に整える方が、現場のストレスを確実に減らします。(政策や税の更新はガゼット告示が一次情報です。毎月のチェック体制をおすすめします。)
開示:スリランカは月次の“山谷”が大きく出やすい市場です。ROROのスペースが潤沢とは限らず、CYカットの前倒し・予備ブッキング・出港分散でバンチ耐性を持たせることが、回転(キャッシュコンバージョンサイクル)の安定化に直結します。今回の7月の大幅増は、制度再開からの実需化と出港集中が重なった結果として自然に読み解けます。金融環境が5月の利下げ→7月据え置きで中立寄りにある現状では、「価格の一発勝負」よりも「在庫の回転速度」と「開示の厚み」が勝ち筋です。8~9月も制度・税制にブレがない限り、ボリュームは上位圏で推移し得ますが、税率・サーチャージや評価の実務に変更が出た場合は即座に積み替えが必要です。
価格:スリランカ向けの見積りは、本体価格だけでなく、現地のCIDや同サーチャージ、その他の間接税を勘案した総取得コストでのコミュニケーションが不可欠です。ガゼット上の税率・サーチャージは発効日や期間指定があるため、プロフォーマインボイスに“税制前提”と“有効期限”を明記し、換算レート(為替バンド)のレンジとともに提示することで、先方の社内決裁を通しやすくなります。「税制・通関条件が変わった場合は再見積り」の条項も標準で差し込んでください。
🔍チリ向け(Iquique/ZOFRI)特集――なぜ+61%も伸びたのか
🏆 2位:チリ(+61.4%/4,065→6,562台)
💡 なぜ急増?
ここが日本→イキケ→近隣国(ボリビア/パラグアイ/ペルー等)に再流通する“ハブ”として機能します。対チリ向けの台数が跳ねる局面は、しばしば周辺国向けの再輸出需要を映します。
1) 市場の“地形”:チリ国内は中古車NG、ZOFRI経由はOK(再輸出が主戦場)
国内規制:チリ全土では中古自動車の輸入は禁止(例外は帰国者の持込や特定用途などの限定的フランチャイズ)。Aduanas(税関)公式FAQにも明記があります。
ゾナ・フランカの役割:ZOFRI(Iquique)やZonaustral(Punta Arenas)などの自由区では免税での搬入・保管・販売・再輸出が可能。Aduanasの「Zona Francaマニュアル」が適用され、現地では電子ビザ申請(SVE)など自由区特有の運用が整備されています。
どこへ売れるのか:学術研究と現地実務の蓄積では、ZOFRIからの主要買い手はボリビア・ペルー・パラグアイ。歴史的に日本との“中古車トレード”をつなぐハブとして機能してきました。
結論:7月の“チリ向け”増は、イキケ在庫の積み増し/周辺国向け再輸出の活性化が主因と読むのが自然です。
2) 7月に“何が噛み合った”のか:金利・為替・港湾オペの三つ巴
金利:チリ中銀(BCCh)は7月29日に政策金利を4.75%へ25bp引き下げ。輸入金融・在庫ファイナンスの足元コストを下げる方向で、ZOFRIの地場資金繰りに追い風です(7月の“枠取り”に間に合う形)。外資系の速報やエコノミストの見立ても年内追加緩和見通し。
為替(CLP):7月のUSD/CLPはおおむね925〜971のレンジで推移(平均約952)。ドル建て仕入れのローカル通貨換算コストは許容範囲に収まり、見積の通しやすさに寄与しました(公式「ドル観測値」系列の参照先と併記)。
物流(港湾の地合い):イキケ港(EPI)は2025年上期の取扱量+29%と回復色が鮮明。1–6月合計1,677,488トン、輸入は前年同期比+45%。港の“器”が締まり、月またぎのバンチ吸収が効いた可能性があります。
示唆:金利の緩み×為替のレンジ内×港湾処理の改善――三位一体で在庫→出港の回転速度が上がる条件が7月に揃った。
3) 規格・適合:LHD必須/RHDはイキケ内での改造処理の対象
チリは右側通行で、路上を走る車は左ハンドル(LHD)必須。運輸通信省の1988年決議が「4輪以上の車両は左側ハンドル」と定めています。RHDのままチリ国内での走行は不可。ただしZOFRIユーザーは、RHD車をイキケ市内の指定工場に搬入して“左ハンドル化”改造を行う運用が整備されています(Aduanasの“Cambio de volante”通達)。再輸出先の法規(ボリビア/パラグアイ等)に照らし、ハンドル位置と登録可否の合致を必ず事前確認してください。
4) 「7月の+2,497台」はどう作られた?――商材と在庫戦略の実像
商材の芯:小型〜中型のSUV/ピックアップ/ハッチバック。年式新しめ×整備コスト見通し良好な個体は、ZOFRI→内陸移送(ボリビア高地・パラグアイ内陸)でも総保有コスト(TCO)がブレにくい。
在庫の持ち方:イキケに“面”で在庫を作り、週次の出港分散でバンチ耐性を確保。40–45日程度のIquique経由リードタイム(海上+内陸)をKPIに逆算して、8–9月の連続出港を埋める形で7月積み増しが入った公算。
価格の提示:ドル建て本体+(自由区内)費用+越境費用を一体で掲示。為替レンジと見積有効期限を必ず明記――金利4.75%局面では資金ショートより回転速度で勝つ。
5) 実務オペの要点:自由区ルールと書類標準化で“詰まり”を回避
自由区ルール:**Aduanas「Zona Francaマニュアル」**の適用範囲(搬入・保管・再輸出・保険付保)と、SVE(電子ビザ)運用を前提に段取り。車両の自由区間移動(ZOFRI⇄Zona Franca Australなど)も制度上可能です。
国内向けの誤配リスク:チリ本土中古車NGの原則は厳格。自由区車両の“解放(desafectación)”手続は存在しますが、適用対象・条件が限定されます。誤った送り込みは在庫化の大きなリスクになるため、輸送書類の宛先・制度コードを事前に二重チェック。
ハンドル位置・改造:RHD→LHD改造は自由区内の指定工場へ。用途国の登録要件(RHD可否・年式制限・環境規制・PSIの有無)を仕入れ前に抑えること。
6) ローカルの温度感(現地マクロ・港湾アップデート)
金融地合い:BCChが4.75%へ利下げ。地場ディーラーの運転資金コスト低下が、在庫厚め→出港分散の戦術を支えます。
港湾処理:イキケ港の2025年上期は+29%。**輸入+45%**の伸びは、自由区向けの搬入増の裏づけとなる公的統計です。
7) 7月の総括と8–9月への打ち手
総括:7月の+2,497台(+61.4%)は、ZOFRIの在庫積み増し+周辺国向け再輸出の回転上昇という“自由区ドリブン”の伸び。利下げ×為替レンジ内×港湾の持ち直しが同時に効きました。
次の一手(実務)
配船:ROROとコンテナの二面持ちで、週次分散と予備ブッキング。
商材:SUV/ピックアップ中心に、年式新しめ・整備予見性の高い個体を厚く。
開示:写真+文面テンプレ(下回り・電装・修復歴)を標準装備。
価格:ドル建て総額見積+為替帯+有効期限の“三点セット”で決裁を加速。
法令順守:中古NG(本土)/自由区OKの線引きを徹底。RHD→LHD改造は自由区内で。
🔍ミャンマー向け特集――「台数が半減」した本当の理由
❌ 1位:ミャンマー(-52.1%/163→78台)
💡 なぜ急減?
7月の日本発“ミャンマー向け”は78台。6月の163台から▲85台(▲52.1%)と、国別では最大級の落ち込みになりました。台数自体は小さいため全体寄与は限定的ですが、「なぜここまで細ったのか」を理解しておくことは、8–9月の仕入れ・配船判断を誤らないために重要です。結論から言えば、規制(左ハンドル=LHD限定・年式縛り)×通貨・税制の“ねじれ”×物流の地合いが三重に効いています。
1) 規制のコア:LHD限定と年式縛りが“日本の中古”を事実上はじく
ミャンマーの2025年の車両輸入ポリシーでは、機械類を除く全ての輸入車は左ハンドル(LHD)でなければならないと明示されています。さらに乗用(非商用)は“2024年・2025年製”のモデル年に限定。商用(バス・トラック等)は2021年以降、救急車・消防車は2016年以降が条件です。これは2024年通知の継続で、2025年も同趣旨が再確認されています。
日本の中古車供給は右ハンドル(RHD)が圧倒的多数で、年式も“直近2年”に限定されない在庫が主力。したがって、LHD限定×年式縛りは日本からの中古流通にとって“二重の狭き門”です。政策の根幹は少なくとも2018–2019年以降LHDのみ輸入可という一貫した方針で、新車寄り・特定用途車・EVなどの例外運用を除き、一般的な日本の中古は適合しにくい構造が続いています。
EVの特例もあります。2025年5月29日付 通商省 通知40/2025はEV輸入のパイロット枠を整理しました(制度は随時更新)。ただし、ここでもLHD原則や事前のライセンス手続が前提で、裾野は急には広がりません。
要点:制度面だけ見ても、“日本の中古(RHD・多様な年式)”がごく狭い窓に押し込まれている——これが数量が伸びない第一の理由です。
2) 通貨・税制の“ねじれ”:関税等の計算レートと実勢レートが違う
次に支払いと課税の話です。ミャンマーでは度重なる通貨管理が続き、2025年1月1日から一時「市場実勢レート」へ課税計算を切替えたものの、1月24日付 通知8/2025で再び中央銀行(CBM)基準レート(USD=2,100MMK)に戻すという“揺り戻し”が起きました。7月時点では、輸入関税・税金の計算にCBMレートを再適用する運用が確認できます。
一方、市場では実勢レートがCBMレートを大きく上回る状況が常態化。2024年6月には1USD≒4,500MMK近辺まで下落し、為替当局は外貨・金の取引取締りを強化しました。つまり「関税などの計算は2,100MMK基準」だが、「実際に外貨を手当てするコストはその倍以上」というねじれが、輸入の意思決定を鈍らせます。
税目も多層です。Advance Income Tax(AIT:前払所得税)2%を税関が輸入時に徴収し、さらに商業税(Commercial Tax:基本5%)や特別物品税(Specific Goods Tax)の対象になり得ます(年次税法で細部が更新)。総取得コストは「車両本体+海上費+通関関連費+AIT+CT+SGT(該当時)」の合算で捉え、レートの前提(CBM基準か)を見積書に明記しないと、双方の解釈差で決裁が止まるリスクがあります。
要点:レートのねじれ×多層課税が、そもそも小さい“適合在庫”に資金調達面のハードルまで上乗せしている。
3) 物流の地合い:ヤンゴン港は“動いている”が、燃料・国境周りの不確実性
港の“器”はどうか。ヤンゴン港(MPA管轄)は2025年7月だけで60隻のコンテナ船入港予定が公表され、Thilawa(MITT)を中心に航路は動いています。7月に「船が来ない」から台数が落ちたわけではありません。
ただし国内の燃料供給や国境貿易の運用には揺らぎが残ります。2025年8月にはタイ側の輸出抑制等の影響でミャワディで燃料配給停止→再開といった事象も発生。港は動くが内陸の“足”が不安定になり得る、というのが足元の現実です。
要点:港湾キャパは確保されつつ、国内物流・燃料・治安由来の不確実性が“ラストワンマイル”に影を落とす。
4) 数字の読み解き:▲52.1%は“構造要因”が9割
供給適合性:RHD中心の日本中古は、LHD限定×年式縛りに合わない(構造要因)。
価格・決済:実勢為替>>CBMレートのねじれとAIT/CT/SGTの多層課税で、資金繰りの読みにくさが増す(金融要因)。
国内の実務:港は動くが、燃料・国境の振れが出荷計画を削りやすい(オペレーション要因)。
この三つ巴は一過性の“月ズレ”では説明できないため、7月の▲85台は“たまたま”ではなく構造的な低水準の一部として捉えるのが妥当です。
5) ここからの実務:やるなら「きれいなLHD」か「EV枠」、そして“条件の見える化”
仕入れ・商品
LHDかつ新しめ年式(2024–2025)で整備コストの読める個体に限定。RHD改造による現地登録は想定しない前提で組み立てる。制度適合の一次資料(通知番号・年式定義)を見積に添付。
EVパイロット枠を使う場合は、事前ライセンスと**インフラ(充電・補修)**の確認を必須に。
価格・契約
見積書には必ず「CBM参照レートでの課税計算(現行運用)」「為替レンジ(実勢)」「有効期限」「税制変更時の再見積条項」を明記。AIT 2%やCT/SGTの前提も別建てで内訳表示し、決裁の“止まり”を潰す。
オペレーション
貿易ライセンスはTradeNet 2.0経由での申請・オンライン決済が標準。書類の不備→差し戻しの時間ロスを想定し、余裕日程を組む。
配船はRORO/コンテナの二面持ちよりも、コンテナ主軸+週次分散が現実的。ヤンゴン港の入港計画を週次でモニターし、燃料・国境のニュースには“当日対応”の連絡網を整える。
6) 8–9月の見通し:制度が動かない限り「低水準の横ばい」ベース
制度(LHD限定・年式縛り)が現状維持の間は、日本の中古(RHD主力)が数量を回復させる余地は薄いと見ます。通貨・税の“ねじれ”が続く限り、実勢ベースの資金コストも重石です。EVのパイロット枠や特定用途車での“点の攻略”は残るものの、面で数字を伸ばす市場設計は難易度が高い——これが慎重評価です。
タイ向け特集――なぜ▲51.9%も落ち込んだのか
❌ 2位:タイ(-51.9%|5,627→2,707台)
💡 なぜ急減?
まず事実関係です。7月の日本発「タイ向け」は2,707台で、6月の5,627台から**▲2,920台(▲51.9%)に急減しました。7月全体の国別動向の中でも最大のマイナス寄与であり、タイ向けのシェアは4.41% → 2.01%へ▲2.4pt**縮小しています(当社集計ベース)。
ここで重要なのは、「“タイ向け”=タイ国内で走る中古車」とは限らないという構造的な前提です。2019年12月10日から、タイでは中古自動車の輸入が原則禁止(一部例外は許可・ライセンス対象)となっており、『輸入“禁止品目”に中古車を含める』という商務省告示(B.E.2562)が今も有効です。例外はごく限定的で、中古救急車や消防車等の特殊用途は所管の管理下で扱われる一方、一般の乗用中古車は国内消費向けに輸入できないのが基本線です。したがって、日本側の「タイ向け」統計の多くは、タイ港(ラエムチャバン等)でのトランジットやボンデッド/フリーゾーン経由の再輸出を反映している可能性が高い、という理解が出発点になります。
1) 構造(常時作用するファクター):「国内消費NG」×「ハブ機能OK」
輸入禁止の枠組み商務省の2019年告示は、中古自動車を輸入禁止品目に位置づけ、古物級(100年以上)や救急・消防などの特殊用途を除き原則ストップ、という線で運用されています(告示は効力継続中)。
厳しい取り締まりトーン2019年の施行時には「12月10日以降、個人用途の中古車は没収・廃棄」という強いメッセージが発せられ、以降も水際の取り締まりは一貫して厳格です。
ただし“ハブ”としての受け皿は存在フリーゾーン/ボンデッド制度では、国内消費に回さない限り関税は停止または免除、再輸出なら課税なしという扱いが可能です。さらにトランジット(通過貨物)制度も整っており、入国税関→出国税関までの通過であれば関税なし(担保提供などの条件付き)で第三国へ抜けられます。→ つまり、「国内販売は不可だが、ハブとしての経由・再輸出は可」というのがタイの基本設計です。
事実として、日本の業界統計でも「タイが中古車の上位仕向け」として顔を出す月がありますが、これは国内消費ではなく“経由地としてのタイ”が数字に現れていると読むのが自然です。
2) 7月に何が起きたのか(短期ドライバー)
タイ=ミャンマー動線の“詰まり”
6月下旬、タイ=ミャンマー国境で中古車の越境に対する取り締まり強化が報じられ、多数の中古車が国境で滞留する事態が発生しました。6月24日付の現地報道でも、ミャンマー側の“未登録車”取り締まりに連動して、タイ側国境で“輸出予定の中古車”が足止めされたと伝えられています。6月末の足止め→7月の出港計画へ波及という時間差を考えると、7月の▲2,920台という急減の一因として対ミャンマー再輸出の停滞を挙げるのが合理的です。
2) 港湾オペの遅延(ラエムチャバン)
7月第2~3週(W28–29)にかけて、ラエムチャバン港でトラック滞留・ターンアラウンド延伸が発生。大手フォワーダーの現地アップデートでは、A0・B1ターミナルの混雑によりピーク時間は6–7時間のターンアラウンドと報告され、W29での正常化見込みが共有されました。週跨ぎの遅延は、RORO/コンテナの積み替え・シャトルにそのまま跳ね、“6月積み→7月着弾”の崩れや**“7月積み→8月着弾”の先送り**を招きやすい。
まとめると、構造要因(国内消費NG)のもとでハブ機能として流れる車両が、6月末の国境詰まり+7月の港湾混雑でタイミングごと圧縮された――これが7月の急減の骨子です。
3) 実務への翻訳:合規・段取り・分散の三本柱
合規(Compliance)――“国内消費NG”の線引きを厳密に
仕向けが**第三国(再輸出)**であることを前提に、フリーゾーン/ボンデッド/**トランジット申告(IM8)を正しく使い分ける。国内消費への切替(内国移入)は原則不可と理解を統一。書類は「再輸出前提」**を明確化。
中古車の国内搬入は原則禁止の告示が現在も有効。例外(救急・消防、古物級等)は限定的で、ライセンス/許可制が前提。社内の誤送リスクをゼロに。
段取り(Orchestration)――“国境・港湾の時差”を吸収する
国境情勢(特にミャンマー向け)は週次モニタリング。6月末の滞留→7月の落ち込みのように、報道→現場への波及は数週間のタイムラグで効く。在庫の置き所(日本ヤード/タイのフリーゾーン)を柔軟に切替。
港の混雑が見えたら、ROROとコンテナの二面持ちで週次分散し、CYカット前倒し+予備ブッキングでバンチを回避。
分散(Diversification)――“ハブ”の多拠点化
タイ以外のハブ(例:スリランカ、チリ=イキケの自由区)の活用も選択肢。国内消費規制とハブ機能の掛け算で、目的地ごとの最短経路を最適化する。(他国ハブに関する詳細は当社別稿参照)
ラオス向け等のクロスボーダー案件では、ラエムチャバン経由→陸送→第3国という制度上のルートが一般的(車両種別や新中古別の適合は相手国側制度で別途確認)。
4) 8–9月の見通し(オペの指針)
構造は変わらず=国内消費NG、ハブとしての通過は可。従って、国境・港湾の“波”に台数が左右される前提は続きます。
国境ニュース(ミャンマー側の取り締まり)は短期ボラティリティのドライバー。足止め→翌月落ち込みという“時差連鎖”を前提に、在庫置き場と配船を週次で張り替える運用へ。
港湾は混雑からの正常化に向けた対策が継続。シャーシ・ドレージ手配の事前確保とターミナル分散で、7月型の遅延を抑制。
5) 仕入れ・販売チーム向けチェックリスト(使い回し可)
国内消費に回さない(再輸出前提)――社内の案件定義に明記
申告スキーム(フリーゾーン/ボンデッド/トランジット)を事前に選定
目的国側の制度適合(年式・ハンドル・環境・登録)を仕入れ前に確認
港湾・国境ニュースは週次で監視、配船・在庫置き場を敏速に張替
7月の▲51.9%は「偶然の月ズレ」ではなく、構造(国内消費NG)×短期ショック(国境/港湾)の掛け算で説明できます。8–9月に向けては、“合規・段取り・分散”の三本柱で、数字のボラティリティそのものを設計で吸収していくことが肝要です。
国名 | Country name | 6月 | 7月 | 増減割合 |
アラブ首長国連邦 | UAE | 20,859 | 19,292 | -7.5% |
ロシア | RUSSIA | 17,615 | 17,045 | -3.2% |
タンザニア | Tanzania | 7,443 | 9,389 | 26.1% |
モンゴル | Mongolia | 3,686 | 3,558 | -3.5% |
チリ | CHILE | 4,065 | 6,562 | 61.4% |
ニュージーランド | NEW ZEALAND | 6,811 | 5,518 | -19.0% |
ケニア | KENYA | 5,623 | 8,037 | 42.9% |
南アフリカ共和国 | SOUTH AFRICA | 4,897 | 4,692 | -4.2% |
タイ | Thailand | 5,627 | 2,707 | -51.9% |
スリランカ | SLILANKA | 6,569 | 11,491 | 74.9% |
マレーシア | MALYSIA | 3,934 | 4,470 | 13.6% |
フィリピン | PHILIPPINE | 3,580 | 3,257 | -9.0% |
パキスタン | Pakistan | 3,851 | 4,033 | 4.7% |
ウガンダ | Uganda | 3,116 | 3,401 | 9.1% |
キプロス | CYPLUS | 2,596 | 2,705 | 4.2% |
ジャマイカ | JAMAICA | 4,025 | 2,347 | -41.7% |
ナイジェリア | Nigeria | 2,939 | 2,982 | 1.5% |
英国 | United Kingdom | 2,508 | 2,681 | 6.9% |
ガイアナ | Guyana | 2,567 | 2,963 | 15.4% |
バングラデシュ | BANGLADESH | 1,522 | 2,246 | 47.6% |
ガーナ | Ghana | 2,826 | 2,951 | 4.4% |
ザンビア | Zambia | 1,666 | 2,486 | 49.2% |
オーストラリア | AUSTRALIA | 1,686 | 1,289 | -23.5% |
アメリカ合衆国 | United states of america | 1,412 | 1,195 | -15.4% |
コンゴ民主共和国 | Democratic Republic of the Congo | 1,185 | 1,538 | 29.8% |
モザンビーク | Mozambique | 1,175 | 1,511 | 28.6% |
ジョージア | Georgia | 1,199 | 1,272 | 6.1% |
アイルランド | Ireland | 1,226 | 1,312 | 7.0% |
ジンバブエ | Zimbabwe | 1,108 | 1,449 | 30.8% |
ミャンマー | Myanmar | 163 | 78 | -52.1% |
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Thank you for your continued support of Japan Carrier.
The Japan Carrier Team
Q&A(2025年7月・中古車輸出まとめ)
Q1. 2025年7月の全体ハイライトは?
A. スリランカが+74.9%(6,569→11,491台)で主役、チリが+61.4%(4,065→6,562台)と続きました。一方、タイは-51.9%(5,627→2,707台)で全体の最大マイナス寄与です。
Q2. “増えた国”のトップは?
A. スリランカ(+74.9% / +4,922台)、チリ(+61.4% / +2,497台)、ケニア(+42.9% / +2,414台)、タンザニア(+26.1% / +1,946台)です。
Q3. “減った国”のトップは?
A. タイ(-51.9% / -2,920台)、ジャマイカ(-41.7% / -1,678台)、ニュージーランド(-19.0% / -1,293台)、UAE(-7.5% / -1,567台)です。
Q4. スリランカ向けが急増した理由は?
A. 2025年2月に輸入再開となり、滞留需要が一気に動いたためです。併せてCID(関税)に対する50%サーチャージ(2025/2/1から1年間)など新税制の前提が整い、発注〜出港の“時差”が7月に着弾した形です。
Q5. スリランカ向けの見積りで注意すべき点は?
A. 本体+通関+内陸+海上の総額提示にし、税制の前提(ガゼット)・為替レンジ・有効期限を明記します。税制変更時の再見積条項もセットにすると決裁が通りやすくなります。
Q6. チリの台数増は“国内需要の増加”ですか?
A. いいえ。チリ本土は中古車の輸入を原則禁止(法18.483・第21条)で、Iquiqueの自由貿易地域(ZOFRI)を使った在庫化・再輸出の“ハブ効果”が主因です。
Q7. 「ZOFRI(Iquique)」とは何ですか?
A. 関税・VATが免除される自由区で、貨物は“外国貨物”として扱われ再輸出が可能です。Aduanas(税関)のゾナフランカ運用マニュアルとZOFRI公式で制度が定義されています。
Q8. タイは中古車を輸入できますか?
A. 2019年12月10日施行の商務省告示以降、一般の中古車輸入は原則禁止です(現在も効力継続)。日本の「タイ向け」台数はトランジット/ボンデッド経由の再輸出が多いと考えるのが妥当です。
Q9. では“タイ向けが減った”のは何を意味しますか?
A. 国内消費の減退ではなく、ハブとしての通過量(再輸出)の一時的な圧縮を示します。港湾・国境の運用や便の“月またぎ(バンチ)”で月次の揺れが出やすい市場です。
Q10. ミャンマー向けが半減した背景は?
A. LHD限定+年式縛り(乗用は原則 2024–2025年式)で、日本のRHD中古が制度適合しにくいためです。さらに**EVパイロット枠(通商省 通知40/2025)**など個別枠はあるものの、裾野は限定的です。
Q11. ミャンマーは通貨・課税の扱いに注意が必要ですか?
A. はい。課税計算のCBM公定レートと市場実勢レートの“ねじれ”や、AIT/CT/SGTなど多層課税が総額コストを押し上げます。見積書にレートの前提と税目内訳を必ず明記してください。
Q12. 「再輸出」とは何ですか?
A. 保税・自由区内に置いた貨物を第三国へ出すことで、国内市場に解放(内国移入)しない取引です。ゾナフランカやトランジット制度の枠内で行います。
Q13. 「バンチ」「CYカット」とは?
A. バンチは出港の月跨ぎ集中で月次統計が“跳ねる”現象、CYカットはコンテナヤードの搬入締切です。週次分散・予備ブッキングでバンチ耐性を高めます。
Q14. 7月の“台数寄与”が大きい国は?
A. スリランカ(+4,922)、チリ(+2,497)、ケニア(+2,414)、**タンザニア(+1,946)**が全体増を押し上げました。
Q15. 7月の“台数マイナス寄与”が大きい国は?
A. タイ(-2,920)、ジャマイカ(-1,678)、UAE(-1,567)、ニュージーランド(-1,293)です。
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